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ベルリンからローカルな環境政策や草の根NGO・市民活動、サステナブルな暮らしなどをレポート。


by yumikov

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グローバルネット記事「環境ゾーンの命運やいかに、ドイツの排ガス規制」

地球・人間環境フォーラム発行の月刊誌『グローバルネット』で5月から始まった連載の記事をブログにもアップさせていただけることとなりました。転載をご快諾いただきました地球・人間環境フォーラムさま、ありがとうございます。ブログでは補足情報やリンクなどもご紹介しようと思います。

第1弾はブログでも何度かご紹介した環境ゾーンについてです。
少々長いですがご一読いただけると幸いです。

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以下、地球・人間環境フォーラム発行の月刊誌『グローバルネット』5月号より加筆修正のうえ転載)

「環境ゾーンの命運やいかに、ドイツの排ガス規制」

 ベルリンのフリードリヒスハイン地区はDDR時代の東ベルリンに位置し、大通りには西ベルリンに権威を示すべく、厳つく仰々しく建てられたロシア風建築が立ち並ぶ。片側3車線の通りも少なくない。その多くは並木道であるが、オープンカフェにいても道路交通の騒々しさや、排ガスの匂いに辟易することがある。


環境にやさしい?ディーゼル乗用車

 ドイツでは100人のうち61人が車を日常の移動手段として利用し(ドイツ連邦統計局)、車の交通量は1960年の4倍以上に増えたという(グリーンピースドイツ)。注目すべきは、1980年には新車登録乗用車のうちわずか2%だったディーゼル車が、2007年には47%にも到達したということだ(ドイツ連邦自動車局(KBA))。以降、軽油価格の高騰の影響もあり、2009年には30%に落ち着いているが、日本と比べてドイツではディーゼル車の割合は多い。これは西欧全般に言えることで、ベルギー、フランス、ルクセンブルク、ノルウェーでは2008年のディーゼル車の新車登録台数のシェアは70%を超えている(ドイツ自動車工業会(VDA))。

 「うるさい、臭い、トラック」というイメージがつきまとうディーゼル車だが、燃費がよいためヨーロッパでは乗用車としてのシェアを拡大してきた。90年代後半にクリーンディーゼルが開発されてからは性能も向上し、加速度的に増えた。CO2の排出が少ない=環境にやさしいといった理由でディーゼル車を選ぶ人もいるという。


EUの基準に合わせ環境ゾーン導入

 確かにガソリン車と比べてCO2の排出が少ないディーゼル車だが、粒子状物質や窒素酸化物(NOx)の排出量は逆に多く、大気汚染が心配されている。

 その対策として、2008年1月1日にベルリン、ハノーファー、ケルンで環境ゾーンが導入された。乗用車であれトラックやバス、タクシーであれ、一定の排ガス基準を満たさない車は、中心部の環境ゾーン内へ乗り入れることができない。ディーゼル車の多くがこの規制に合わせて対応を求められることとなった。

 EUでは統一の排ガスの基準を設けており、90年代にEuro1から段階的に規制を強化してきた。環境ゾーンでは、浮遊粒子状物質PM10の排出のレベルをEU基準に基づいて3段階に分類し、それぞれ赤(Euro2)、黄(Euro3)、緑のステッカー(Euro4、Euro5)で識別する。環境ゾーン内は有効なステッカーのみが通行でき、違反した場合には40ユーロの罰金が徴収され、1点減点を受ける。これまでにドイツ41都市で環境ゾーンが導入されている(2010年4月現在)。


粒子状物質による健康被害

 環境ゾーンの規制の中心となるのは、PM10と呼ばれる粒子状物質である。粒子状物質はその粒径から分類されるが、PM10とは、大気中に浮遊する粒子状物質のうち、基本的に粒径が10ミクロメートル以下のものをさす。PM10の一日の濃度が50μg/m3(マイクログラム/m3)を越える日が年間35日以下であること、年間平均値が40μg/m3を超えないこと、というのがEUの規定である。

 この粒子状物質は、ぜんそくや肺炎、ひいては肺がんなどの病気を引き起こすことが明かになって以来、注目を浴びている。非常に小さな物質で、肺の奥の肺胞に侵入すれば、心臓や循環器・呼吸器系の病気の原因ともなる。

 ディーゼル車から排出されるすすの粒子は特に微小で、短長期的な健康被害に影響しており、連邦政府の環境問題諮問委員会も、大気汚染の最重要問題として2002年に所見を述べている。WHOは、ディーゼル車からの排出を含む浮遊粒子状物質によるドイツ国内での死亡件数が、年間7万5千件であると予測している。排気ガスは地上から約150センチメートルまでに集中するため、特に子供は被害を受けやすい。それを意識せずとも、実際に体感する空気の状態は、ここで子育てをすることに不安がつきまとうほどだ。


フィルターの追加装備に補助金

 では、ディーゼル車は環境ゾーンを走れないかというとそうではない。DPFというフィルターを追加装備すればよいのだ。

 ドイツ連邦政府は、ディーゼル乗用車のフィルター追加装備に対して補助金を出している。金額は330ユーロで、3分の1から半額の費用を国が負担してくれることに相当する。2009年の始めからの半年の間で、毎月6000台にフィルターが追加装備されたという。補助金は2009年末までであったが、ドイツ政府はこの補助金を2010年も継続し、対象を商用車へと広げることを発表した。(ドイツ連邦環境省(BMU))


ベルリンの実状

 では、ベルリンの状況はどうだろう。ベルリンでは2010年からは第2段階へ移行し、ゾーン内は緑のステッカーのみが走行している。この段階を導入しているのはベルリンとハノーファーのみである。

 ベルリンの環境ゾーンは、市内をぐるりと囲む環状線の線路の内側に設定されている。その範囲は約88 km²である(東京の山手線は65 km²)。ベルリンの人口は340万人だが、そのうち100万人がこの範囲内で暮らしている。

 ベルリンの主要道路では、浮遊粒子状物質(PM10)と二酸化窒素(NO2)のいずれもが、過去数年間、EUの上限値を上回っていた。そのため、他の都市に先駆けて環境ゾーンを導入することとなった。

 導入当初は、規制対象になるのは範囲内の住民が所有する120万台の7%、計8万4千台ということで期待は薄かった。ベルリンでは他の州に先駆けて1996年に市内バスにフィルターを装備してもいる。導入して1年後の州政府の発表によると、環境ゾーンの第一段階の成果は、2007年比でディーゼルのすすの排出が28%、NOxの排出が18%の減少だという。PM10については、EU規定を超えた日が環境ゾーンを導入しなかった場合と比べて4日間少ない計算となる。


対応の遅れと問われる有効性

 この結果にも関わらず、環境ゾーンに対する批判は続いている。
 規制が厳しくなる年の瀬にはちょっとした騒動があった。赤ステッカーはもうゾーン内を走行できないが、黄色のステッカーの車はフィルターを追加装備すれば緑に代えられる。だが、製造が追いつかず、数千台の車がフィルター待ちの状態となった。メルセデス・ベンツスプリンターやアウディ、BMWなどのいくつかの車種では、数ヶ月も在庫切れが続いた。環境ゾーンを段階的に導入する理由のひとつに技術的な対応の問題があったが、それでもメーカーは対処できていない。結局、ベルリン政府は11月の半ばに特例措置を発表し、フィルターを既に注文したことを証明すれば、装着までの期間は黄ステッカーで環境ゾーン内を走行できることとした。ベルリンの車15000台とブランデンブルク州からの車6000台が対象となったが、特例措置の申請を処理する行政手続きも遅れ、路上で監視する行政担当者や警察の対応についても問題が指摘された。

 環境ゾーンの有効性自体も問われている。
 浮遊粒子状物質の排出源は、人為的なものは10%程度で、残る90%は土や耕地から風で運ばれてくる粉塵や花粉に起因していると研究がある。人為的と言っても、道路交通が中心というわけでもなく、産業や暖炉やストーブなど家庭の暖房に起因するところも大きい。環境ゾーンの導入にも関わらず各所で上限値をしばしば超え、批判的な報道が続いている。
3月にベルリン州政府が発表したところによれば、PM10に関するEUの年間上限値を3月で既に超えたという。EUの大気質指令では、規定濃度を越える日は年間35日までとしているが、3月の時点でマリーエンドルファーダムの測定所では既に35日を超え、フリードリヒスハインやシュテークリッツ、ノイケルンでも、既に30日以上上限値を超えたという。

 これに対して全ドイツ自動車クラブ(ADAC)は、会員数名で再度訴訟を起す構えだ。ADACは、日本自動車連盟(JAF)に相当する機関で、環境ゾーンは粒子状物質対策として無効であると主張し、12月に敗訴したばかりだ。

 一方、ベルリン州政府のカトリン・ロンプシャー健康・環境・消費者保護相は、有効性を疑わない。同省の報道官ディットマー氏は、考えられる要因として、まずこの冬の大寒波をあげている。東ヨーロッパからの気流が都心部に追加的に粒子状物質を運び、逆転層が生じたために対流が起らず、粒子状物質が取り除かれなかったという説である。第2の理由として、この冬に撒かれた記録的な量のすべり止め剤があげられる。異常な降雪に除雪作業が滞ったのは記憶に新しい。凍結した路面には砂利をすべり止め剤として用いるが、この冬ベルリン都市清掃公社や市民が撒いた量は3万5千トンにのぼるという。その砂利がタイヤにすり砕かれ、粉塵となって大気中にまき散らされたというのだ。冬の長いスウェーデンのストックホルムでは、同じ問題から100日は上限値を超えているという。


自治体ごとに異なる対応

 話をドイツ全体に戻すが、PM10はドイツ国内400箇所で測定されている。環境ゾーンの導入は地方自治体が管轄しており、規制の段階的な導入や特例措置など各都市で対応が異なる。

 ミュンヘン市では当初2010年からは緑のステッカーのみが走行できる予定だったが、赤のステッカーに対しても特例措置を出している。これに対し連邦環境庁(UBA)長官のヨッヘン・フラスバート氏は「ベルリンなどの大都市では、粒子状物質排出の約5割が交通に起因する。多くの環境ゾーンで拘束力を持って緑のステッカーの走行のみを許可すべきである。」と批判している。

 アーヘン市はEUの上限値を超えているが、環境ゾーンは導入しないと宣言して波紋を呼んでいる。「環境ゾーンは、手間やコストと比べて効果が低すぎる。ケルン、ハノーファー、シュトゥットガルトなどでは実際に粒子状物質が減っていない。道路交通量自体を減らすべきであり、そのために公共交通を充実させる必要がある。」同市環境担当のクラウス・マイナース氏は言う。トラックや市内バスを最新のEU基準に合ったものに代え、自転車道を隈なく整備し、ジョブ・チケット(通勤者向け割引定期券)の活用を増やすなど、環境ゾーンに代わり33の対策を準備しているという。


強化されるEUの排ガス規定

 前述のように欧州ではディーゼル車の普及率が高いこともあり、日本やアメリカに追随するかたちで規制を厳しくしてきたが、EUの排ガス基準Euro5のPM基準は、日本の新ポスト長期規制と同様の厳格な値である。しかし、2007年にはEU27カ国中ドイツを含む24カ国がPM10の上限値を越え、欧州委員会に対して達成期限の延長を求めなければならない状況である。EUでは、PM10よりもさらに微小であるPM2.5の規制にも乗り出す予定だ。そして、14年にはさらに厳格な基準Euro6の導入を予定している。各国が対応を求められるところだが、ドイツの環境ゾーンははたして適当な手段と言えるだろうか。多くの都市で緑のステッカーのみが走行するのは2013年以降の話である。
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