ベルリンからローカルな環境政策や草の根NGO・市民活動、サステナブルな暮らしなどをレポート。


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グローバルネット記事『“市民自治体”という発想の街づくり』

転居に伴い、月刊誌『グローバルネット』での連載「ベルリン発サステナブルライフ考」も9月号で最終回となりました。1年半の間、自由に書かせていただいた編集部の皆様、有難うございました。
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(以下、地球・人間環境フォーラム発行の月刊誌『グローバルネット』9月号より転載)

ベルリン発サステナブルライフ考
“市民自治体”という発想の街づくり
翻訳者 ユミコ・アイクマイヤー


 夏の休暇から戻ったあたりから街の至るところにプラカードが見られるようになった。ベルリンでは9月18日に市長選を控えている。ベルリン市は単独で一つの州を成しているため、事実上は州選挙だ。現在のゲイの市長ヴォーヴェライト氏(ドイツ社会民主党)はある意味ベルリンらしさを象徴していて根強い人気だが、今期、緑の党からレナーテ・キュナスト氏が出馬を表明して注目を浴びている。彼女はかつて連邦消費者保護・食料・農業大臣として有機農業の拡大を目指して意欲的な目標を打ち出した女性。フクシマの後に行われたバーデン=ヴュルテンベルク州選挙では州レベルで初の緑の党の首長が誕生したが、首都ベルリンではどうなるだろうか。

自治体の予算編成に市民が参加

 ベルリン市では12ある区のうち八つの区が市民予算という地域の予算編成に市民の意見を取り入れる制度を導入している。私の住むフリードリヒスハイン=クロイツベルク区でも2008年に導入され、私もこれまで地区の集会などで要望を上げてきた。ここでは国籍も、選挙権も、年齢も問われず、住民か区内で事業を行っていれば誰でも参加できる。市民の意見を聞く方法は自治体によって異なるが、わが区ではまず次年度予算を市民に公開し、市民が行政窓口や郵送、インターネット等で要望を出す。「あそこの角の緑地を整備してほしい」「○○保育所の保育士の人数を増やしてほしい」など、かなり具体的だ。次に地区ごとに集会を催し、その地区の要望を絞る。それを区議会と行政担当者で検討する。

 私の区は経験が浅く、市民に浸透しているとはいえないが、2005年から導入しているお隣のリヒテンベルク区では成果を上げ、参加率も2割程度に増えてきた。対象は17分野で、3,200万ユーロ分の予算が市民予算で調整される。これまで市民大学での移民対象のドイツ語講座や並木道へのベンチ設置など、平均して市民の提案の約4分の1が実現している。地区ごとの集会では託児や手話のサービスも用意され、誰もが参加しやすいようにしている。以前クリスティーナ・エムリッヒ区長さんに話を聞いたところ、この市民予算制度は職員の反発を押し切って区長がトップダウンで導入したそうだ。この制度によって市民とのコミュニケーションが円滑になり、今では職員もこの制度に満足しているという。

 ドイツでは不況の影響もあって市民予算制度の導入はここ3年で急速に進み、現在80以上の自治体が導入し、導入の議論をしている自治体を合わせると200近くに上る。ケルン市では毎年テーマを変えており、2010年は教育と環境保護がテーマだった。環境保護分野では、街路樹の植樹、壁面緑化、森の学校の維持、環境教育のコンセプト作り、自転車道の補修、車の速度制限ゾーンの設置などに予算を追加配分した。このように制度も多様化している。

“市民自治体”への道

 このリヒテンベルク区は、“市民自治体”を目指してこの市民予算制度に取り組んでいる。ベルリン市では2001年にそれまでの行政区が統合されて、一つひとつの区の規模が大きくなった。その際にリヒテンベルク区が主眼を置いたのが、“地域”で、区内を13ヵ所に区分けして地域センターを置き、特色づくりや取り組みを強化してきた。旧東ドイツ側に位置する同区は統一後の急速な変化の中で、いまだ抱える課題も多い。そんな中、市民一人ひとりの関与を重視した。市民予算制度も年々仕組みを改善して、市民の手で回るように運営自体における市民の関わりを強化している。例えば地域ごとの集会は、最初は行政が主催していたが、今では各地域の市民やNPOが行政の予算を切り盛りして、資料作成や広報を担っている。

 そもそも“市民自治体”とは何だろう。自治体の代議的な意思決定を、直接民主主義的な形態や、市民の自由意志や対話など民主的な協働によって補おうというものだ。ライプチヒ市では、市民活動のために事務所を提供したり、子供が生まれた全家庭にアンケートを行って要望を確認したりしている。エッセン市では、ボランティア・エージェントを作り、ボランティアをしたい個人や企業などを集めて公共の活動への仲介を行っていて、この団体運営自体も将来的には市民が行うことを目指している。

 市民参加の強化に長く取り組んでいるフィルンハイム市の市長の「市民自治体は議決できるものではなく、育つか育たないかだ。しかしそれを育てようとすることはできる」という言葉に反映されているように、市民自治体を宣言することには意味はなく、それを目指す継続したプロセスでの学びが各自治体に実りをもたらしている。ここでは各団体や企業、政治、行政からのアクターと市民が互いを尊重し、協力して自治体の方針や目標設定に携わる。市民にはさまざまな参加の機会によって社会的・文化的インフラを共に整備する権利が与えられるとともに、行政サービスの顧客としてだけでなく自治体を共に作る役割を請け負う。行政側は生活者の視点やニーズが得られるため、よりきめ細やかで効率よく質の良い対応ができる。どこの広場のベンチが壊れているかは住民がよく知っているというわけだ。また、市民のボランティア活動や相互扶助の価値をこれまで以上に公が認め、職業以外で個人が活躍できる舞台を地域に作る。地元企業の社会貢献を促すことも重視している。地域住民としての自覚を育むことで、自治へのコミットメントを促すということだ。 こうした市民自治体を目標とする動きはドイツ各地、そしてフランスやベルギーなど欧州全体へと広がりを見せている。そして、市民予算制度はこの市民自治体のコンセプトの中核を担うものとして位置付けられ、相互作用的に広まっている。

誰もが“自分の街”づくりに参加できる

 原発の稼働延長議論と並んで昨年ドイツ社会を騒がせた問題に「シュツットガルト21」がある。駅前大規模開発事業をめぐる対立だが、民主的決定プロセスや透明性の問題が次々と浮上し、一地域の問題から警察も力ずくで沈静化を図るほどの大騒動へと発展し、ドイツ中で物議を醸した。その反省から、今、ドイツでは再び市民参加の議論が活発になされ、3.11後の脱原発を決めるプロセスでもテレビでの公開討論を行うなど、影響を与えている。

 4年暮らしたベルリンをまもなく離れるが、「この街が好き!」という人が集まっているところが大好きだった。街の一等地にあるジャンダルメンマルクト広場の再開発では、街路樹の伐採の是非が問われて半年ほど前に対話の場が設けられた(写真)。
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驚くことに、この集会には住民のみならずツーリストも参加できた。この歴史的由緒ある広場はツーリストのための場でもあるから、という発想だ。ここにベルリンの懐の深さを感じた。結果に法的拘束力はなかったが、伐採計画は変更となった。このようなドイツの地域レベルの取り組みは、もちろん急に育ったわけでなく、ローカルアジェンダで市民と行政との協働を強化していったという基盤がある。顔の見える規模から始めて、地域→地方自治体→国→世界と視野を広げたら、もう誰もが地球市民。どこにいても「ここは自分の街」と思えるように魅力的な“街”を創っていくしかない。

本連載は今回で最終回となります。
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by yumikov | 2011-11-04 15:10 | 環境のこと

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